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学術活動

低フェリチンと高生存率

  • 日付
    2015/06/28
  • 学会・研究会
    第60回日本透析医学会学術集会(6/28)
  • 発表者
    小川千恵
  • 所属
    武蔵小杉

【背景】鉄過剰は酸化ストレスを誘導し、動脈硬化、感染症、心筋梗塞、悪性腫瘍をもたらすことが報告されており、血液透析(HD)患者における予後や貧血治療に対して、至適貯蔵鉄量は重要な問題だと思われるが、各種ガイドラインにも差があるのが現状で、未だ不明瞭のままである。
そこで、今回、我々はHD患者における至適鉄状態を検討するために、血清フェリチン値(s-ft)、鉄飽和率(TSAT)、10年生存率の関係を検討した。
【方法】対象は2002年5月から2013年4月まで当施設に通院中のHD患者で、2002年5月からの1年間にエリスロポエチン製剤(ESA)を使用した125例。試験開始時、急性心血管障害、急性感染症、悪性腫瘍の合併例、転帰不明の症例は除外した。ヘモグロビン値(Hb)は日本透析医学会のガイドラインに準じて、10-11g/dLを目標に ESAと少量の鉄剤にてコントロールを行った。TSAT<20%の症例(n = 34)では生体反応の一つであるHb量の低いことを確認しているため予後不良と推測し、TSAT≧20%の症例をs-ft値で分類した。 group 1 (s-ft < 30 ng/mL; n = 15); group 2 (s-ft 30-80ng/mL ; n = 28); group 3 (s-ft > 80ng/mL ; n = 48)。カプランマイヤー法、ログランク法にて生存曲線を解析し、コックス比例ハザードモデルにて死亡に対する危険率を検討した。また、重回帰分析を用いてHbとs-ft、TSAT、我々が鉄利用効率の指標と考えるFe/s-ftの関連性を検討した。
【結果】10年生存率はgroup 2 (90.3%)で最も高く、ついでgroup 1 (66.7%) 、 3 (60.4%)、最も低かったのは TSAT < 20%の group (50%)であった(P = 0.013)。また、TSAT<20%のgroupを対象としたコックス比例ハザードモデルでもgroup 2で有意にハザード比は低くなっていた。そして、重回帰分析ではHbはTSATとは相関しなかったが、log [s-ft]とは負の相関、log [Fe/s-ft]とは正の相関を認めた(P < 0.001)。
【結語】“TSAT ≧20% 、s-ft 30–80 ng/mL” で10年生存率が著明に高かった。
そして、これらの結果より「ESA製剤使用時の透析患者の至適s-ftは現在推奨されている値より低い範囲にある可能性がある」と考えられた。

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